― お母さんだから見える、子どもたちと将棋 ―


 <目次>

1.将棋を始めてよかったこと

①たくさん負けても逃げない~将棋を通して成長した心~

②他のゲームはすぐ飽きるのに…

③礼儀作法

④将棋を通してできる「子離れ」~親の成長~

⑤みんなで成長する~和先生と子どもたちとお母さん

 


1.将棋を始めてよかったこと


聞き手:日本まなび将棋普及協会事務局 池田(将棋の森15級)

 将棋を指すお子さんをもつお母さん3人の、インタビューシリーズです。

 

① たくさん負けても逃げない~将棋を通して成長した心~

 

前回は「将棋を勧めたい理由」をリアルにお話しくださいましたが、今回はその理由がさらに深まる内容になっています。

 

▲将棋を始めて、よかったなと思うことはありますか?

 

池山さん(以下:池)「うちは、ふたりとも(遼くん・翔くん)将棋やっているんですけど、将棋をやってよかったなって思うことは、上の子(遼くん)の方は、もともと失敗するくらいだったらやらないほうがいいというか、性格的にも怖がりで慎重で、ダメそうだったらやらないで、手を出さない!というタイプだったんです。

 

失敗をすごい恐れるし、慎重で怖がりで逃げちゃうところがあったんですけど、将棋を始めてから、将棋って負けるじゃないですか、最初始めたときはおじいちゃんに負けて見られるのが嫌で、泣いて嫌がったりししていました。

 

本当に負けるっていうのが嫌だったんだけど、和先生に教えてもらうようになってから、たくさん負けても、逃げないで続けられるようになった・・・。将棋をやることによって、そういった部分も成長できるようになったなと思います」

 

▲それは大きな変化ですね。

 

山崎さん(以下:山)「子どもたちの性格を読んでくれるよね、和先生が」

 

池「そうそう、子どものタイプによって教え方も、しかり方も違うし、遼のそういう失敗が怖いというところもわかってて、また、兄弟の性格の差もよくわかってて、ご指導してくださる。

 上の子の方は、ゲストにきたプロ棋士の先生のような尊敬できる人に、一言でも褒めてもらったらやる気が出るのではないかな?と先生がおっしゃってて・・・なんかそういうこの子にはこういう言葉がけをよくわかってらしてすごいな~と思いました」

 

田中さん(以下:田)「最近宿題も、和先生カスタマイズしてくれてない?その子一人一人のやる気がでるようになってて、それはすごいな~って。うちは、怖いもの知らずで、おだてれば乗るタイプなので、すごい上手に載せて下さるんですよ」

 

▲田口さんは、和樹くんや香奈ちゃんに対して、何か感じる変化はありますか?

 

田「和樹は、勝っても負けても嬉しい。やれることが嬉しい。負けても泣いたことがない。プロ棋士さんは、泣いている方が強くなるって聞くんだけど、うちの子は負けても次って感じで」

 

山「切替が早いのはすごいことだよ」

 

田「もっと押し込めてやって~って思うんだけど。逆に下の子の方(香奈ちゃん)は、遼君と同じような子。和先生におっしゃってもらって笑わせてもらったのが、”香奈ちゃんは私が見てきた中で、一番の慎重さです。自分の力を信じていない”って言われて、確かにそうかもしれないって思いました。山崎さんの子と幼稚園が一緒だったのでわかるんですけど、3年間毎日会っているのに、山崎さんに挨拶ができない子でした」

 

山「なかなか心を開いてくれなかったよね。でも、道場に行くと、すっごいしゃべってくれるですよ」

 

田「将棋をやって変わったと思う。ひとと向き合って、自分の弱いところと向き合わないといけない強さというのを、将棋で教わったなって思う。和先生はそういった彼女の性格をわかってくださるので、もう全部おまかせします!って感じで。どんどん叱ってくださいって感じです。

 

 先生の見方、指導を聞いていて、とても納得いくし、私自身も、第三者から言ってもらえてとても育児の参考になるんです。こういう風に見てもらって、引き出してもらえることによって、ぼやっとしていたことが明確になってくるので、私も、彼女に改めて向き合えたなって思います」

 

山「将棋を指していると、自分とも向き合うし、相手とも向き合うから、自分のことをよくわかってくるのかもしれないね~。慎重だったりというのも、指し手でわかってくるのかな~って」

 

池「そういうのすごいな」

 

山「負けそうになると、諦めてしまうとか、わかるのかもしれないね~」

 

池「将棋を習ってよかったことは?って子供に聞いたら、遼は、”よく考えるようになった。将棋以外でも。” と。翔は”楽しいことが増えた。でも楽しいのと、怖いのがある。怖いっていうのは負けること。”

 

”じゃあ、怖いけどやめたいとは思わないの?”って聞いたら、”辞めたいとは思わない。でも、楽しいのと怖いのがある。”って言っていました。

 

5歳くらいの子が、負けるはすごく嫌なことで、体験したくないことなのかもしれないけれど、やっぱり勝ちたいから続けたいっていう気持ちをもっているんだな~って」

 

山「私の弟もそう言うの。将棋やらせていると、考える癖がつくというか、考え続ける癖がつくのがいいって。

 

わたしも将棋を勉強しはじめて、考えてもわからないときは、いいや適当にやっちゃえって思うんですけど、それじゃいけないんですけど(笑)。でも、詰将棋とか実戦も、考えられるところまで自分で考える癖がつくんだろうなって。

 

ほら、ゲームとかは、ちょっと下手にするとリセットとかもできるけれど、将棋ってどんな劣勢になっても、それは自分の責任で、自分のやっちゃったせいなのを、全部自分で受け止めたうえで続けないといけない、考えないといけない。

 

そういう精神的な強さ、考えないといけない強さみたいなものは、将棋でしか身に着けられないんだなって思います」

 

池「私も全然弱いくて、それでもやっているのですが、将棋の対局の終わりの方で、明らかに劣勢でつらいけど、これで終わりにしたいけど、それでも最後まで指さないといけないというとき、確かに心が強く、それでも止めちゃわないで、相手がいることだから、ネット将棋だと相手が目の前にいないから投了しちゃうことはあるかもだけど、目の前にいるのにやめて出て行ってしまうのはいけないことだから、だからそこはすごく辛抱強くなるところなのかなって。」

 

山「負けてても、最後まで、最後の最後までわからないっていうのがあるから、そこはあきらめないでやるっていう気持ちを持ち続けるっているのはすごいことだよね」

 

劣勢になったときのあの辛さは、お話を聞いていて痛いほどわかりました。劣勢になっても、目の前に対局者がいる。かつ団体戦だったので仲間が横で戦っているのため、投げられない。いや、投げたくない。だからこそ身についたのは、「この局面で探せる、私なりの最善手を探そう」「仮に勝てなくても、次につなげられるよう一生懸命考えよう」という姿勢。

 

将棋を指していると、私のような15級であっても、やはり負けると悔しいです。それは誰しもが一生懸命指しているから。「なんであんな手指しちゃったんだろう」って心で泣きながら、対局をしていますが、だからこそ自分と向き合い、相手と向き合い、最後までやり抜く辛抱強さが身に付くのだと感じます。

 

それは、将棋を指す子どもたちをみているお母さんたちにも、強く響いていました。

 

② 他のゲームはすぐ飽きるのに

 

他にも変化したなと感じた面はありますか?

 

池山さん(以下:池)「他の習い事と比べて、辞めたいとは一度も言わなくなりました。ほかの習い事だと、ちょっとでも飽きて、もうこれ以上無理ってわかると、すぐ辞めたいって言ってしまう方だったんですが、将棋ではそれを言わない。それだけ好きなのだろうなって思います。

   また最近、なかなか昇級できない状態なのですが、そういった状態で続けていくときの辛さも、大事な経験になっていると思います。それでも続けているってことに意味があるのは大事だなって。」

 

田口さん(以下:田)「うちも、将棋では休んだことないですね。テラコヤとか。」

 

池「よっぽど体調が悪くないと休まないです。でも、他の習い事は休むんですよ。なんかちょっと頭が痛い・・・とか(笑)。だから本当に将棋に、和先生に会えて良かったなって思います。」

 

田「うちもそう。ほかの習い事だと、行きなさいよ~自分で決めたんでしょうって思うんだけど、“な、なんかちょっと頭が…”とか言って休もうとします。でも将棋はそんなことを言わないですね。」

 

山「二人で一緒に行くようになったのも大きいかもね。」

 

池「うちは、慎重派だから絶対一人で行くような子じゃなかったので、子どもだけで行くようになったのも将棋のお陰だなって思います。それは本当にすごい成長だなって。  だって遼は私と離れるもの、すごく怖がるタイプだったから。子どもだけで移動っていうのは何かあったらどうするの?と思うけれど、いろいろ経験できるなって思います。」

 

田「一番上の和樹は将棋大会のとき、高熱が出たんですよ、しかも39度くらいの。それでも行くっていうから、”え、行くんですか?!”と、驚いてしまって。ほかの習い事だったら絶対いかないのに、将棋の大会は”行く”と言った。

 将棋マジックにかかってるんですよね。将棋ってすごいなって思いました。結局棄権して帰ってきてしまったんです。将棋指していたら、頭が割れるように痛くなって、頭痛薬とか飲んだけどダメだったんですね。でも帰りの電車の中で、”帰りたくないよ~帰りたくないよ~”って言ったんです。でも、”電車乗っているからもう無理だから”ってなりました。その様子に私隣にいて笑っちゃったんです。何なのこの子は、って。

   でも、他の習いごとだったら、37度あるかないかくらいで、ちょっとの熱でも休みたがるのに、将棋だけはどうも…(笑)」

 

山崎さんはどんなふうに感じていらっしゃいますか?

 

山「子供が楽しんでやっているから、こちらも、そんなに好きなら、はいどーぞ、みたいな気持ちで送り出せる習いごとってほかに無いなと思いますね。」

 

田「将棋の時間だよって言ったこと無いですものね。将棋だけは、自分で行ってきますって感じ。」

 

山「みんな好きでやっているから。好きなことの挫折はつらいのかもしれないけれど、それをどう乗り越えるかっていうのは、私たちも全然わからなくて未知なのです。

 でもそこは先生がいらっしゃるから、信用してついていくだけです。和樹くんもきっと、ひと皮むけたね。うちの洋介にとって目標ですよ、和樹くんは」

 

池「うちもそう。和樹君は目標。最近は和樹くん忙しくなって、一緒に行けなくなってしまったけれど。」

 

目標になる存在が居てくれるってとてもいいですね。田口さん、香奈ちゃんの変化はありましたか?

 

田「そういえば、藤井四段の連勝で、校長先生があいさつで話をしたことがあったそうなんです。ニュースを読み上げて、将棋というゲームがあって、藤井四段のように粘り強い精神が素晴らしい、とおっしゃったらしく。

 香奈が、その原稿をもらいたいと思って、担任の先生に言ったらしいですね。”校長先生が話していた原稿をもらいに行きたいんだけど貰えるかな”って。そしたら、私は”あなたがそんなことを言ったの!?”ってびっくりして。」

 

池「担任の先生もびっくりしただろうね。」

 

田「内弁慶だから絶対そんなことできないんです。担任の先生も香奈がどういう性格か知っているから、じゃあ一緒に校長室行こうって言ってくださって。そして校長先生に、”今朝の朝礼でお話ししてくれた原稿をください”って言ったそうです。」

 

田「そしたら”僕の話をちゃんと聞いてくれてどうもありがとうね”って言ってくださったんですね。その時にたまたま、タイミングよく、テラコヤTシャツを着ていたから、校長先生に見せて。“へ~将棋をやっているの~”なんて言われて。」

 

山「すごいね、ブームというか。」

 

和樹君はどうですか?

   田「うちの子たちは、DSを持っていないです。テレビゲームも持ってない。もちろん興味があるようだけど、こういうルールだって、わかってしまうと、興味がなくなるらしく将棋の方がいいってなるみたいです。ゲームを買ってもらうよりもプログラミングを習いたいって。パパがプログラミング系だったから、こっちのほうがおもしろいってパパが言っているのかもしれないけれど、ゲームはある程度ストーリがわかってしまうから。自分がクリエイティブにやるプログラミングは、将棋と同じじゃないか、ってパパに言われているみたい。ゲームは友達が持っているから、いいな~って言うのだけど、将棋をやると忘れるみたいでだから将棋はすごいなって。」

 

池「将棋は攻略できないからね。こんな何十年と人類がやってもまだ攻略できないんだものね。」

 

確かに、プロ棋士の先生方でも、まだまだ研究をされていますね。

 

田「考える力がついたのは、将棋のお陰かな。将棋に対して子どもがどう思っているか、普段考えたこともなかったのですが、娘の場合は、頑張ろうって諦めない力がついたと思う。けれど和樹の場合はわからない。将棋をやって、どんなふうに変わったかというのがわからないな~。」

 

池「3歳からやっていたらね。わからないよね。もう生活の一部。」

 

田「香奈は明らかな変化があったわけ。だけど和樹は勝っても負けても嬉しいから、わからなくて。考える力が付いているのかもしれないけど、先生の方がわかってるんだろうなって、今度聞いてみよう。」

 

田「将棋だったら合宿にも行けちゃう。」

 

池「うちも泊まりは結構嫌がるタイプだったんだけど、将棋ならいける。」

 

山「夜、花火とかレクリエーションあるのかなって思ったら、何にもない。ずっと将棋指しているって。」

 

池「でも楽しかったらしいよ。」

 

田「5時に、お坊さんの鐘で起こされて()

 

山「子どもたちがいっぱいいて、何かやるのかなって思ったら」

 

池「お寺だし結構厳しくて、将棋ばっかりやってたって言ってた。」

 

田「ほかの合宿だったら香奈は行かない。和樹は行くと思うけど。将棋で合宿を経験したから、ほかのにも行ってみようかってなっている。  将棋以外のキャンプ合宿に任意で行くんですけど、そういうのを楽しんでいけるようになりました。夜中に抜け出して、一人でトイレに行かないといけない、っていうのも平気になってきて。

 

 何かあった時にとっさに自分で判断する、っていうのが不安な子は、行きたがらないじゃないですか。自分のことを思い起こしてもそうだったけれど、小学校高学年の移動教室や、中学の修学旅行も嫌だったな~って。香奈も、友達と一緒にお風呂に入らないといけないの?食べ物も何がでてくるかわからないし、不安だって。  でも子どもたちは将棋だったら1週間あってもいい、なんて言うようになったから、本当驚いています。」

 

山「同じ年くらいの子どもたちがいて、将棋をみんなでやるって楽しいみたいだね。道場も長時間飽きないのかなって思うけれど、道場に放り込んでおいても大丈夫ですもんね。」

 

田「自由時間になっても、将棋やっているって聞いた()

 

山「感想戦したり、面白いよね。」

 

田「すごいなって本当に思います。幸せなんでしょうね」

 

山「本当一生涯の趣味を持てたというのは、なんか幸せなことですよね。」

 

池「おじいちゃんになってもできますもんね。むしろおじいちゃんがみんなやっている。囲碁将棋の会とか」

 

皆さんの体験を通じて、子どもたちの成長に将棋が大きくかかわっているということを実感しました。

 

③ 礼儀作法

 

将棋は礼儀作法が身につくと、言われますが、その点で感じた変化はありますか?

 

池山さん(以下:池)「将棋以前の問題で、5歳の次男の翔のほうは、上の遼より落ち着きがなくて、とてもテラコヤの時間座っていられる、ずっと座って指していられることはありえない。他をいじったり、邪魔しそうに思ったので先生に相談したんです。だけど、今のところは全然行けている。それは、家だと考えられないんですよね。」

 

山崎さん(以下:山)「私もテラコヤで一緒になったけれど、将棋の間は本当に一生懸命座ってやっていた。確かに休憩時間は、みんなのところに行って、おやつ交換とかやっていたけれど。座りなさいといわれてしまうけど。将棋の間は全然、他のことを忘れるくらい一生懸命やっていたよ。」

 

池「うちでは、食事の食べ始めから、食べ終わりまでずっと座っていらなくて、叱りっぱなしで。しつけの面でも、テラコヤでこういう時間がもてるのは本当助かっています。このまま小学生になれるんだろうかと思う状況なので。ちゃんと座っている、そういう練習ができることも、ほかの場ではできないことだから。将棋で対局しているときに勝手に立ってはいけないのが、5歳くらいでもわかるんだなと思います。」

 

山「将棋の大会で思わない?大会が始まる前に偉い方が出てきて話をしているんだけど、みんなちゃんと座ってるよね。うろちょろしている子はいないよね。」

 

田口さん(以下:田)「うちの子が通っている学校のクラスには元気な子が多いんです。座っていられない子が多いから、将棋の森でずっと座っている将棋少年少女とのギャップをすごい感じるんです。なんであんな静かなのって。」

 

山「合宿の時も正座だったんです。長い挨拶が次々と続いたんです。退屈そうではあるけど、正座を崩さずみんな座っているから、みんな偉いな~って思って見ていました。」

 

他に何か変化を感じたことがありますか?

 

田「和樹が、駒をたたくようにパチンパチンと置いていたんですよ。旦那がその様子をみて、あれは本当に行儀が悪いな。テレビで見ていると、棋士はあんな軽やかに指しているのに、うちの子はなんであんなに違うのかなって気にしていました。和先生に聞いたら、大丈夫です。半年後には変わりますから。って。」

 

池「えー、なんでだろう。」

 

田「変わるんですか?と聞いたら、考えることができるようになった時に、静かになっていく。級が上がれば上がるほど、静かになっていきますからと言われたよ。」

 

池「うちも一時ひどい時期があって、たたきつけるように駒を打っていて。夫もそれを気にしていたんだけど、本当に一時期でした。確かにそういう時期があるのかもしれない。」

 

田「確かに、楽しい♪”って感じる指し方なのかもね。でも親からすると気になって。相手に挑戦するかのようにたたきつけていて、うちの夫も注意しそうになったけど、注意する前に和先生に聞いてみるね、って。和先生に聞いたら、言わないであげてください、注意しなくていいって言われたから、言わないでおこうってなりました。確かに今、静かだよね。二階に将棋盤があるんですけど、音がしなくなったなって。」

 

山「男の子は短気だから、まだ小さいときには相手が長考するとあ~あとか言う子がいたけれど、(将棋の)森では居ないものね。自然に身についているのか、先生が言ってくださっているのかわからないけれど

 

「将棋」の時間は、就学前のお子さんでもずっと座っていられるんですね。子どもたちの変化について引き続きお話しいただきます。

 

④ 将棋を通してできる「子離れ」~親の成長~

 

「将棋をやってから変わったこと」について、今回は少し違った視点からのお話しになりました。

 

池山さん(以下:池)「子どもの将棋大会の時は、例えは野球の大会だったら、”わー!!”って盛り上がって応援したり、観戦したりするけど、会場がシーンと静まりかえっていて親は固唾を飲んで見守りますよね。あの誰も何もしゃべらない緊張感が(山崎さん:口出しちゃいけないんだもんね)、他とは全然違うなーって思います。」

 

田口さん(以下:田)「しかも勝敗が、どっちが勝ったかわかりづらいよね。」

 

池山・山崎「そうそう(笑)」

 

田「先生はわかるみたいよ。私が”和樹が勝ったか負けたかわからないです~”って言ったら、”私はわかりますよ~”ってサラって言われて。段々前のめりになるからって。顔色は変わらないけれど。先生はわずかな変化を見逃さないみたいです。」

 

池「私も勝ったか負けたかわからないんですけど、先生は指した場所でわかるって言っていました。」

 

山崎さん(以下:山)「攻められているときは自陣を見ていて、攻めているときは盤の相手の方を見ている。だから少し優勢なのかなって言っていました。」

 

将棋の大会は、サッカーや野球のようなスポーツと違って、親が大きな声でこどもに歓声を送れません。口を出すこともできず、ただ黙って遠くから見守らないといけないことに、山崎さんは複雑な気持ちになることがあると言います。

 

山「子どもが泣いていてもこちらは何もできない。でもそれは親にとっていい修行なのかもしれません。最後まで親は手が出せない。自分でやらせる。親はどうしても口が出しちゃう、手を出しちゃうっていうのがあるから、親も自立させられているのかもしれない。将棋のおかげで子離れ出来ているのかもしれないって思いました。気持ちの面で。」

 

それは新しい気づきなんですね。

 

田「山崎さんは、私からみると子離れできているように思う。一人っ子のお母さんなのに、すごいな~って。」

 

山「将棋のお陰かもしれないね。口出したいところがあっても、わからないから出せないんだけど…」

 

田「いや、えらいと思う。他の一人っ子のお母さんと比べて、山崎さんって結構淡々としているように見える。子どもに対しておおらかに見てるし。私の方はわたわたしているから。」

 

山「兄弟がいると、小さい子がいるからあっちこっちに目をやると思うけど、うちは一人っ子なので、両親の視線をすべて浴びてしまうプレッシャーがあるんじゃないかと思うんです。そこは親としても課題なんですけど。将棋のお陰でその辺はクリアできそうかなって。」

 

田「結構他の習いごとって、お母さんと一緒に入る習い事が多いように思います。エレクトーンとか、バイオリンとか。(小学校)1年生になったら一人で…っていうような感じだと思います。でも将棋の森の場合は、「お母さん、どうぞいなくなってください」って感じだから。子どもの様子は見られないけれど、こっちとしてはいいんだ~って。子どもその方が集中できるわけだし。」

 

 将棋を通して成長したのは、将棋を指している子どもたちだけではなく親御さんもでした対局が終わるまで見守らなければならない将棋独特の環境が、お母さん自身の「子離れ」として感じられた、という話は新鮮でした。

 

 テラコヤ(将棋教室)では子どもたちがお母さんと離れて、「自立する時間」ができます。それがいつも一緒にいるお母さんにとって、自分と子どもとの関係を見直す時間になっているようです。

 

⑤ みんなで成長する~和先生と子どもたちとお母さん

 

今回は子どもたち、お母さん、指導者である和先生の、三者に生まれる信頼関係について紹介したいと思います。

 

山崎さん(以下:山)「将棋の教室では、先生という第三者に客観的に見てもらえるのがいいのかもね。」

 

田口さん(以下:田)「そう、お母さんはいつもほめるし、お母さんは正しくないし…みたいな。プロの先生に自分を見てもらえるのがうれしいんですね。先生からできたねってほめてもらえると、天狗になるのは困るけど、自己肯定感を高めるのにはいいのかな。」

 

山「うちの子は最近全然千駄ヶ谷での級が上がらなくてあと1勝というところで負けてしまい、そういう状態でもモチベーションの保ち方に関して、先生が上手に言ってくれるんです。  無責任に大丈夫よっていう感じでなく、具体的に”じゃあ洋介君こういうの勉強してみたら?”って。

 

このあいだは、”ちょっと寄せが甘いかもね”、寄せの本買ってもらったら?って言われたんです。ちょっとした言葉を具体的に言われて、「寄せの本」を買うことができたし、子どもは“そこがわかったら、もしかした上がれるのかな”って。きっかけを与えてくださったので、もう最近級が上がらないしダメって感じだったのに、ちょっとやろうかなって…。

 

それまで将棋の勉強は全然していなかったのに本を読んで頑張りだしたら、今度は先生が、“先生はね、こどものとき、夜の8時~9時って将棋の時間を決めて、その時間はお父さんに言われた詰将棋を必ずやっていたんです。同じ本を何回も何回も解いて、一日に何百問と解いていた”と話をしてくれて、そのタイミングだったから響いたと思うんです。」

 

田「そうなの!タイミングがずれると本当に響かないんだよね。」

 

山「たまたま、その”寄せの勉強をしたら?”と言われて勉強し始めたときに、そういうことを言われたものだから、”そうか、僕もこの本何回もやる”ってなったんです。絶妙なタイミングで先生が言ってくださったのが本当にすごいなって思いました。」

 

池山さん(以下:池)「子どもたちを個々に見て、先生という立場の人から言ってくださるのが本当にありがたいです。」

 

田「うちの子3人でもさばききれないのに、何十人もさばけるのは本当にすごいです。魔法の粉でも飛んでいるのかなって。」

 

山「子育てをするうえで、先生の存在に助けられている。将棋の存在に私たちも助けられているんです。すごい先生だなって!」

 

将棋をしていると、必ず「伸び悩み」の瞬間が現れます。それはどんな習い事でも存在するものですが、直面した本人は、初めての経験であり、不安になります。そしてそれは、親御さんも同様のようです。そのようなときに大事なのは、指導者の声掛け。

 

「習い事」が楽しくなるのは指導者と子どもたち、親御さんとの信頼関係が非常に大事であるということを、インタビューを通して改めて感じました。