冨田八枝子さんインタビュー
日本まなび将棋普及協会の事務局池田です。
2017年6月9日金曜日の午後3時。私は、現在、実際に子どもたちに将棋を教えている、冨田八枝子(とみたやえこ)さんの活動の場の見学に行かせていただきました。
場所は、新渡戸文化アフタースクール。東京メトロ丸の内線の東高円寺駅から徒歩5分の場所にあり、学校が終わった子どもたちが、多岐にわたる活動を行うことができる場所です。
その中で冨田さんは、アフタースクール専用ルームの一角、二畳ほどのスペースに将棋ブースを作っています。同じ部屋には、本を読んだり、オセロなど他のゲームをやったり、いろんなことが自由にできるようになっていました。
準備している段階から、「早くやりたい」という子どもたちの声。子どもたちはすでにスタンバイOKの状態。
冨田さんは、「ちょっと待っていてね~」と優しく伝えながら、本将棋の布盤と駒、ごろごろ将棋盤、どうぶつ将棋、おおきな森のどうぶつしょうぎなど、ドラえもんのポケットのようにたくさんの種類を出され、さらに「これは対局が終わったらもらえるんだよ~」と、子どもたちが楽しめるように、かわいらしいシールもたくさん机の上に並べました。
私が驚きながらも、大きな森のどうぶつ将棋を並べていると、一人の女の子が、「これ知ってるー!やりたい!」と私の前に座り、
「このうさぎさんはね~こうやってぴょんぴょん行けるんだよ~」
「ひよこさんは、ここにくるとニワトリになって、パワーアップするんだよ~」
ニコニコ笑顔で、教えてくれます。「ふふふ、かわいいな~」と思って話を聞いていたのですが、少し気を抜いて指していたら、将棋の森15級の私は、すぐ危ない局面になり、(いや、気を抜かなくても、)飛車や角をただで取られてしまったりで、ひとりアタフタ。徐々に、「こんな棋力の低い私が、相手でいいのだろうか。」そんな不安がどんどん大きくなっていきました。
しかし、「楽しい!!」「もう一回やりたい!!」という、子どもたちのパワーあふれる可愛い声のお陰で、かき消されていきました。
この話を、後で冨田さんにすると、「棋力は必要ないんですよね。本当に。この話をすると、誰も信じてくれないんですけど、本当に必要ないんです。必要なのは、子どもたちと一緒に楽しめる心。あとは、プライドなく、負けてあげられる心。そして、子どもたちに“礼儀”を伝えられる人ですね。」
気付くと、嬉しいことに「わたしもやりたい」「僕もやりたい」と子どもたちの行列ができあがっていました。最初は待っていられた子どもたちも、徐々に待ちきれない心が抑えられず、「こうするのがいいよ。」とお友達の対局に対して、話し始めます。その瞬間、「お友達が対局をしているとき、横からお話しするのはルール違反です。お侍さんの時代では、それをやると首を切られるくらい、やってはいけないことだったんですよ。」と伝えた冨田さん。その場面を見た私は、楽しさと礼儀を、一緒に伝えられる将棋は、本当にすばらしいゲームだなと、改めて感じました。
冨田さんはおひとりで、本将棋と、どうぶつしょうぎの二面指しをされていましたが、それでも子どもたちの列は途絶えません。他にも、オセロなどもできるのに、将棋のブースは大盛況。あっという間に、子どもたちの帰宅時間の午後6時になりました。それでも、「やりたい」「え~もうできないの?」と言ってくれる子どもたち。「次、将棋ができるのは、いつ?」とさえ、聞いてくれました。
大盛況で幕を閉じた将棋ブース。
「棋力は必要ない」とお話しくださった冨田さんの言葉が、実体験を通して感じられる時間でした。
私自身、将棋を始めたばかりで、教えられる棋力はありません。局面も覚えていられないので、感想戦もできません。しかし、それでも子どもたちが、目をキラキラさせて、どうぶつしょうぎや、本将棋をやってくれ、「楽しい!」と言ってくれたことは、本当に嬉しい気持ちでいっぱいになり、私でもできるかもしれないと感じました。
しかし、棋力は必要ないとわかったとしても、もう一つの壁にぶち当たります。それは、「自分だけで教室を開くことは無理!」という気持ちです。これに対して冨田さんは、こう話してくださいました。
「確かに、日本まなび将棋普及協会で教え方講座を受けて、すぐに自分一人の教室をもつというのはハードルが高いと感じるのが普通です。なので、今日の私の活動に一緒に体験してもらって、週に数時間でもアルバイトで、経験を積んでもらう形なら、ハードルはぐっと下がると思うんです。」
「それに、この新渡戸文化アフタースクールさんでも、他の学童であっても、私一人だと本当に回らない。今日も、私一人では、絶対回せませんでした。」
確かに、3時間、対局を待つ子どもたちが途絶えることはありませんでした。
「それに、普段も金曜日にやることが多いのですが、こんなに盛り上がったのは初めてです。きっと、2人大人が相手できたことで、子どもたちの待ち時間が減ったからだと思います。いつも、私一人なので、最初は待ってくれていても、気付くとほかのゲームをやりに行ったりしてしまうんですよ。だから、本当に人手が必要なんです。今すぐにでも!」
冨田さんは言います。
「盤を挟めば、普段接することのできない子どもたちと接せられるのが将棋の素晴らしいところ。子どもたちと一緒に楽しい時間を過ごしたい方で、駒の動かし方さえわかれば、本当にできるんです。それこそ、学生さん、主婦の方、おじいちゃん、おばあちゃんでも!」
ちなみに冨田さんの棋力は?と伺ったところ、「八枚落ちを卒業するのが大変でした。とある将棋教室の先生からは、“あれだけ成長しないのも珍しい”なんて言われるほどよ。」(笑)
それでも、子どもが大好きで、ニコニコ笑顔と時々の礼儀を伝える真剣なまなざしの冨田さんは、子どもたちから大人気の先生。
「将棋って、礼儀もしっかり伝えられるし、考える力も付く、とても素晴らしいゲームです。それに伴って算数とかの能力もあがると思うんですよ。だから、多くの子どもたちに小さいうちから、将棋に触れてほしい。今はご家庭に将棋盤が無い時代ですから、なおさら。でも、人手が足りないのが現状。ぜひ、日本まなび将棋普及協会の【教え方講座】を学んだ方もそうでない方も、私と一緒に、体験してほしいです。冨田と一緒に行けば、体験できます。ぜひ、子ども達のキラキラしたまなざしに、日ごろのドロドロしたものがそぎ落とされますよ~」
子どもたちに将棋を伝えたい。でも、棋力がないから…と諦めていらっしゃる方は、たくさんいると思います。しかし、今回、冨田さんのお話を聴き、実際の体験を通して、将棋の棋力がなくとも、将棋を通して、子どもたちに将棋の楽しさを伝えられる、そんな奇跡のような瞬間に立ち合えるのだと感じました。
ご自身での教室開催のハードルの高さを感じていらっしゃる方。ハードルを下げて、一度冨田さんの活動に参加し、子どもたちと触れ合ってみてはいかがでしょうか。
文責 日本まなび将棋普及協会 事務局 池田